ちはやふる日記


[cinema] 『流浪の月』

2022年05月16日 11:37更新

李 相日 監督の最新作。長野県松本市を中心に撮影が行われた作品ということで映画館へ行きました。縄手通りや女鳥羽川といった松本城周辺のいわゆる観光スポットを日常の風景の一場面として上手に切り取り日本のどこかにある匿名の地方都市として描いていました。近代的なビルや古ぼけたマンションがニョキニョキと建っている一方で背後に北アルプスや北八ヶ岳の山々が映る風景が耽美でした。DVを受けて顔じゅう血だらけの広瀬すずさん演じる女性が薄暮の街を彷徨い歩くシーンがあるのですが「信毎メディアガーデンのあたりって、こんな都会的で街灯かりがきれいな通りだったっけ?」と気を紛らわせていないと、スクリーンを見ながらただただ気持ちが沈んでいく、つらいシーンが続く作品でした。

深く厚く垂れ込めた雲間から一瞬だけ姿を現す月。見えていないから存在していないのではなく、ただ見えていないだけという事実を認識することは難しいことです。松坂桃李さんと広瀬すずさんが演じる主人公は人には言えない秘密を抱えています。この秘密のために、社会との繋がりや家族や恋人といった身近な繋がりまで断たれてしまう悲しみを辛く切なく描いています。「血を分けた家族であれば何でも話せるはずだ」、「愛している恋人であれば、どんな秘密も明かせるだろう」なんて言葉が限りなく軽薄に感じられる重いテーマを描いた作品でした。



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