[cinema] 『ボストン市庁舎』
2018年秋から2019年冬にかけての米マサチューセッツ州ボストン市の行政の現場にカメラを入れたドキュメンタリ作品。休憩時間を挟んで約4時間半の長編映画でした。駐車違反からごみ処理、貧困対策、人種差別問題などなどなど…と市行政の仕事がこんなにも多岐にわたるのかと、とても勉強になる内容でした。そして、その各々の仕事が密接に関係していることも映像で巧みに可視化されていました。それにしても、市長や市職員、そして市民がとにかく喋る、喋る、喋る。そしてカメラは会議室や記者会見場、窓口や電話口で喋り続ける人々に対して、空気のように存在して人々の発言を記録しています。そこには監督や映画製作者による場面や発言の切り取りはあるのでしょうが、ひたすら淡々と人々の発言をコメントや解説を付け加えずにスクリーンに映し出します。たとえば真冬のボストンでホームレスの人達の凍死事故を防ぐために緊急避難的に南駅を深夜に解放したところ、南駅が不貞の輩の好き放題の無法地帯になっているらしい、ということが会議の出席者の発言から察せられます。しかし、その発言がどこまで事実なのか?誇張や歪曲が含まれていないのか?逆にさらに深刻な事態に陥っているにも関わらず関係者により把握されていないだけなのか?カメラは会議室の風景しか捉えていないため観客には分かりません。発言内容の吟味はスクリーンを見る観客に委ねられています。しかし「発言があった」ということは事実。監督がマイクを向けてインタビューしているわけでもなく、一人一人がカメラなど眼中にないかのように何かの目的をもって喋っている姿をカメラに収めた徹頭徹尾ドキュメンタリーでした。
映画はよろず相談窓口のような市役所の電話受付の音声から始まります。そして長い長い4時間半の映画のあとに、再び市民の苦情相談に電話対応する市職員の声が流れます。映画本編を見る前と見た後でガラッと電話対応に対する感想が変わってしまうのが、この映画の巧みなところでした。「近所にいつも現れる鷹の様子が、どこかおかしい」と市役所に相談されても、どうしたものか?と、それでも思ってはしまいましたが… 😅