ちはやふる日記


『バリ山行』

2024年08月07日 21:42更新
バリ山行

今年度の第171回 芥川賞受賞作。本のタイトルに惹かれてページをめくりました。百名山ではなく『バリ(バリエーション・ルート)』。ピークハントでもクライミングでもなく『山行(さんこう)』。誰に誇るでもなく、誰から褒められるわけでもない私的な趣味の行為を巧みに描いた小説でした。

不条理な存在として六甲の里山、バリエーション・ルートを描いています。沢も谷も訪れる誰かを癒すためにそこにあるわけではない。尾根も岩稜も見晴らしのためにそこに存在しているわけではない。「この世界が何かのために存在する」という幻想を引き剝いでいきます。物語は二代目社長の方針転換であれよあれよと経営が傾いていく主人公の職場の風景と並行して山行が描かれるのですが、どちらも不条理、どちらも儘ならぬ世の常と相対化してしまう不思議な陶酔感の漂う小説でした。



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