『櫻の園』
中原俊監督の1990年公開作品『櫻の園』を長野相生座・ロキシーでリバイバル上演していたのでブラリと見に行ってきました。
お話はとある女子高の年に一度の開校記念日に毎年上演される演劇部の『櫻の園』の幕が開ける、その日の朝から幕が開けて舞台が始まる瞬間までを切り取った作品です。映画と言うと、夏の始まりから終わりまでの一つの季節を描いたり、時に主人公の幼少期から臨終までの長い一生の一瞬一瞬を切り取って2時間前後に収めているストーリーに慣れていたので、ちょっとだけ特別な一日を切り出して描いた作品を当時驚いて見た覚えがあります。映画の中で「先生たちはまた来年があるから今年は中止しても構わないというけれど、三年生の先輩たちには今年の『櫻の園』が最後なんです。」という象徴的なセリフがありますが、コロナ禍で様々な行事や大会が中止された昨今に重ね合わせて見てしまいました。
1990年前後というと日本はバブル景気の只中。マンハッタン中心部にあるロックフェラーセンタービルやエリクソンビルなどを日本企業が次々に買収して絶頂期にある時代でした。チェーホフの『櫻の園』に登場する没落貴族が米国や欧州で、日本は新興地主のロパーヒンだと勘違いしていました。櫻の園の木々を切り倒していく帝政ロシア末期の世情が、30年を経て今の日本の社会状況と重なって感慨深いものがありました。
映画上映の後、当時、演劇部の高校生の役で出演していた宮澤美保さんと梶原阿貴さんがアフタートークで登場しました。作品公開から30年を経て、ポニーテールとショートカットの少女が登場するとは思っていませんでしたが、マスク姿の女性が登壇すると誰?という感じでした。でもマスクの下から声を発すると高校生の城丸さんと久保田さんのまま。当時、映画のためにデザインから起こして出演者一人一人採寸してオーダーメイドした制服が今でも袖を通せるそうです。おみそれ致しました。 😅
打ち合わせなしのトークだったそうですが、映画撮影当時のエピソードを沢山お聞かせいただきました。映画の終盤、中島ひろ子さんと白島靖代さんが演じる二人の同級生が部室の外で並んで記念写真を撮る印象的なシーン。「もっと寄って!」のセリフに二人がカメラに向かって寄っていくのですが、脇で撮影を見学していた出演者たちが大笑いして叱られたエピソードも語られました。他の出演者たちは台本を見て「寄る」の意味が「左右から頬を近づける仕草」だと思っていたのに「カメラに向かって前進していく」から笑ったのだそうです。当時は『自撮り』という言葉はおろか、スマホもデジカメもない時代でしたが、時代を先取りした演出でしたね。 😀